【人間は「考える葦」である】(パスカル)
人間は孤独で弱いが、考えることができることに、その偉大と尊厳がある。
「考える」とは、心の中にある二つ以上の選択肢から、どれが正しいかを導き出すこと。
投資における哲学の重要性とは?
人は、お金に関して感情的になりがちです。
自由を享受するための資産運用であるはずなのに、「もっと儲けたい(欲望)」「損をしたくない(恐怖)」といった感情に揺さぶられているようでは本末転倒です。
そこで資産運用と正しく向き合うために、まずは「精神面」を整えましょう。
この記事は【先人たちの哲学を知り、確固たる自分の哲学を求めよう】という試みです。
哲学とは人生の羅針盤である
「哲学」とは、物凄く簡単に言うと「ナビ」のようなものです。
「ナビ」は目的地までの行程を示してくれますが「交通手段」「最短距離」「最短時間」「有料無料」など個人の好みでアレンジできます。
「天候」「安全性」「快適性」なども考慮すれば、様々な選択肢があります。
「安全第一で健康にも気を配りたい」とすれば「徒歩」、

「危険はあるが自分の裁量で目指したい」とすれば「車・バイク・自転車」、

「人生には限りがあるから時間が大切」とすれば「飛行機」、

「時間はあるからお金を節約したい」とすれば「夜行バス」、

「天候の影響を受けずに目指したい」とすれば「鉄道」、

「人が好きで新しい出会いを求めたい」とすれば「ヒッチハイク」、

という風に、人によって様々な判断基準があります。
これは、目的地への到達方法だけに限らず、人生における「選択と決断」が必要とされる全ての場面において求められます。
そして、この判断基準こそが「自分の哲学」と言えます。
資産運用においては「何に(商品)」「いつ(タイミング)」「どのくらい(金額)」「どのように(売買)」行うか?
「利益」が出ている時、「損失」が出ている時に、どのように対処するか?
こういった選択肢に「自分の哲学」で向き合っていきます。
投資における哲学的アプローチ(古代哲学)
手法(トレードの聖杯)について
「永遠にお金を生み出す手法がある」と考えることは非常に危険です。
また、正解だと思える手法を発見した時に、他を否定するのは愚かなことです。
仮に現時点では正解だとしても、今後も正解であり続ける保証などありません。
絶えず検証し続け、アップデートの可能性を探ることが正しい姿勢です。
少し、例を挙げてみましょう。
昔「東京電力」の株を買って、老後は配当金で生活するという手法があったそうです。
インフラ株なので倒産はしないし、利回りも良いので、退職金をつぎ込んだ人が多かったそうです。
しかし、東日本大震災が発生し、放射能が漏れ出し、株価は暴落しました。
お次は「鉄道・航空株」です。
どこでもドアなど無いので、人が移動するには必要で、絶対に無くならないからです。
すると、新型コロナウィルスが蔓延し、人々が移動しなくなり、株価は暴落しました。
今度は巣ごもり消費だということで「運送株」が買われました。
物質転送装置など無いので安泰だというわけです。
さて、Uber(個人配送)が台頭するのか、ドローン輸送が主流になるのか、3Dプリンターなのか、果たして何が起こるのかは分かりませんが、世の中は諸行無常であり、盛者必衰であると考えるのが哲学的なアプローチとなります。
「売り」と「買い」について
【万物の根源は水である】という哲学の祖タレスに異を唱えたのが、弟子のアナクシマンドロス(日時計・世界地図・天球儀を初めて作った人物)です。
彼は「万物の根源を水とするなら、水から火が生まれるはずだが、自分にはそれが理解できない」と主張しました。
そして、彼は【あらゆるものには相反するものが存在する】と気付いたのです。
「明と暗」「善と悪」「富と貧」「本音と建前」
「売と買」「長期と短期」「増配と減配」「上昇と下落」「利益と損失」「テクニカル分析とファンダメンタルズ分析」…
色々な考え方の人がいるからこそ「売り」と「買い」が成立します。
物事には【一長一短】があり、哲学も【十人十色】です。
答えは唯一ではないので、多角的に考えることが大切です。
長期投資における哲学
SDGs(2030年までの持続可能な開発目標)とは「貧困を無くそう」という人道的な思想は建前で、「貧困者の生活レベルを底上げして稼ごう」というのが本音と考えられます。
要するに、
貧困者(=新たなる消費者)にスマホ(iPhone)を、宅配(Amazon)を、娯楽(ディズニー映画)を、ファストフード(マクドナルド・コーラ)を、みたいなことです。
ならば「世界で稼ぐ企業に投資し稼がせてもらおう」というのが僕の哲学となります。
例えば、インドのスマホ保有率は25%、インターネットの普及率は都市部(約4.5億人)は60%超えですが、農村部(約9億人)は約17%と言われています。
まだまだ、資本主義経済の成長余地(株価の上昇余地)があると思いませんか?
米国(GAFA)と中国(BATH)が戦っていることは、実は喜ぶべきことかもしれません。
中国はインドとも対立していますので、米国がインド市場を支配しやすくなるからです。
因みに、MicrosoftとGoogleの社長がインド人というのも、それを示唆している気がしませんか?
いずれにしても、コロナ禍でもIT関連株は上昇しています。
空気を読む(忖度する)
「お金について声高に主張する」などということは、空気を読める人ならば遠慮したいと考えます。
胡散臭いだの、詐欺まがいだの、と言われるのがオチだからです。
ですから、僕は世界の片隅でひっそりと、伝わる人にだけ伝われば、というスタンスです(思考整理と子孫に向けて書いています)。
因みに、アナクシマンドロスの弟子・アナクシメネスは「万物の根源は”空気”」と唱えました。
ハァーと息を吹きかけて手を温めることも、フーッと息を吹きかけて料理を冷ますこともできるからです。
そもそも「万物の根源」となるものは「目に見えない」という考えが根底にあります。
相場は動き続ける
ヘラクレイトスは、万物の根源にあるのは【火(≒対立)】であると考えました。
彼は、対立の相互循環を「下りの道」「上りの道」と呼び【万物は流転し続ける】と説きました。
流転の状態こそが安定であるから、それに従って生きなさいという教えです。
感情ではなく、数字でトレードせよ
【万物の根源は「数」である】と考えたのがピタゴラスです。
彼は「数学的思考(比例・調和)」で自然の原理を理解しようとしました。
この思想がフィボナッチ級数(黄金比率)に繋がっていると考えると感慨深いです。
トレードにおいては、まさに数字(節目)こそが判断基準です。
「無知である」ことを自覚せよ
ソクラテスは、自分は知らないということを自覚している分、他人より勝っていると考えました。これが有名な【無知の知】です。
例えば「自分は移動平均線について知っている」つもりでも「移動平均線を使ってお金を稼げない」のなら、それは移動平均線について何も知らないのと同じことです。
テクニカル分析だろうが、ファンダメンタルズ分析だろうが、稼げないのなら「自分は無知だ」と気付くことが最初の一歩なのです。
ソクラテスの教え
【徳は知である】【汝自身を知れ】
常識と言われるものを鵜呑みにせず、
常に思考と反省を重ね、
正しいやり方(コツ)を知るべし
書籍や映像で知識を得たとしても、使いこなせないなら知恵とは成り得ません。
「理性」を持って相場と向き合う
ソクラテスの弟子プラトンは【人間の魂は、理性・欲望・気概の三つからなり、理性によって残りの二つを統制する必要がある】と考えました。
この理性を鍛える方法、つまり感情を抑制するために【哲学】が必要なのです。
経験や感覚を重視する
相場においては、継続し、経験を積むことによって「ここは上がりそうだ」「ここは下がりそうだ」と分かる場面が増えてきます。
万学の祖アリストテレス(アレクサンドロス大王の教育係としても有名)は、経験や感覚を重視する現実的思索を展開し、あらゆる学問に精通していました。
トレーダーでいうなら「相場観」です。
(これは実践・経験を通して、自分で獲得しなければなりません)
また、アリストテレスは「人間は誰もが幸福になることを望んで活動し、自分の可能性を実現することが幸福である」と説きました。
隠れて生きよ
「心が乱されるのを避けるためには、無用な交わりを避けるのが一番である」と説いたのがエピクロスです。
人生が楽になる言葉
【死は我々にとって何物でもない。生きている時には存在せず、死んだ時には既に我々は存在しないのだから・・・】(エピクロス)
彼は、心身両面における平静な状態こそが、人間にとって最大の快であり、必然的な欲望のみで満足する術を身に付けることが肝要と説きました。
分相応の「衣食住」があれば幸福であり、誘惑が多い世間とは距離を取れという教え。
ローマ五賢帝・最後の一人マルクス・アウレリウスも「謙虚な生き方を追求して、平静を保つことが大切」と説きました。
彼は、ストア哲学者(ストイックの語源)として知られていましたが、彼の死後急速にローマ帝国は衰退していきました。
判断の停止
ピュロンは【分からないことは判断しない】ことで魂の平静を貫こうとしました。
投資で考えると「分からない商品には手を出すな」ということです。
結局は神頼み?
【万物の根源は「一者」(=神)である】と古代ギリシア最後の哲学者プロティノスは説きました。
この考えは、その後の西洋哲学に大きな影響を与えることになりました。
マルクス・アウレリウス以降、個人的に共感できる哲学者が現れるのは、ルネッサンス以降のモンテーニュまで1350年も待たなければなりません。
投資における哲学的アプローチ(中世~近代哲学)
「神」中心の世界観から、「人間」中心の世界観へ。
ありのままに
【私は何を知っているか?】モンテーニュ
大事なのは「あくまでも自分に合った生き方を送ることであり、そのためには時に不合理な慣習に倣うのも辞さない」とモラリストの始祖モンテーニュ(著書『エセー』)は説きました。
「不合理な株価の値動き(例えば不景気の株高)であっても、チャートに従って売買すべし」と僕は解釈します。
『川の流れのように』『世界に一つだけの花』『Let It Go~ありのままで~』のヒットで知られるように【自分らしさを求める】というのは日本人が受け入れやすい思想です。
知識は技術や実践と結び付き意味を持つ
【知は力なり】フランシス・ベーコン
印刷技術が文芸に、火薬が戦争に、羅針盤が航海に影響を与えたように「経済・金融・政治」などの知識は「技術(テクニカル分析)」や「実践(トレード)」と結び付いてこそ意味を持ちます。
フランシス・ベーコンは「先入観や権威への盲信」を排除し、論理と経験を基にした知識のみを求めるという信念を持っていました。
論理的に考える
【人間は考える葦である】と説いたパスカルの神に対するスタンスが秀逸です。
神が実在するかどうかは分からない。
しかし「神は存在する」と仮定し、信じた方が得である。
なぜなら、存在するなら天国に行けるし、存在しなかったとしても何も失わない。
逆に「神は存在しない」と考えると、もし存在した場合は不信仰の罪で地獄に堕ちる。
だから神を信仰しよう。
株価が上がるか、下がるかは分からない。
しかし、ローソク足が〇〇だから、チャートパターンが〇〇だから、移動平均線が、雲が、トレンドラインが、フィボナッチが、、、
と毎日論理を積み上げています。
経験を積むことで知識や観念を得る
【生まれたての人間の知性は白紙であり、経験を積む中で様々な知識が書き込まれる】経験論の祖ジョン・ロック
独自のトレード手法を持つ
【万人に承認される真理よりも、自分にとってかけがえのない真理の方が、自分にとっては大きな意味を持つ】実存主義の先駆者キルケゴール
自分の哲学・思想・人格を形作るのは、常に自分です。
つまり、自分の人生を彩るのは、自分の意思と決断です。
僕はトレードに関して、ゆるぎない哲学と手法があるので「平静」です。
投資における哲学的アプローチ(現代)
【神は死んだ】ニーチェ
「貧しい弱者が善で、富める者や強者が悪」という概念を作ったキリスト教こそが、最大のルサンチマンである。ニーチェはルサンチマンが人間の生命力を弱めると説きました。
※ルサンチマンとは、貧者が自らを道徳的に正しいとみなす価値の転倒意識。
人口比率で考えると「貧者>富者」です。
ですから、テレビドラマなどは大衆の支持を得るために「貧者=善」として描きます。
これは、あくまでも視聴率(=広告収入)を獲得するための方法論なのですが、それを正しいことだと思い込み、貧しい現状を正当化してしまえば成長はありません。
相場は毎日違う姿をしている
【人間であるということは、人間になるということ】ヤスパース
音楽・小説・映画や人との出会いから、大きなインパクトを受けた経験は誰にでもあるでしょう。
他人にとっては取るに足らないことでも、自分にとっては響いてくるのが哲学的真理です。
このような経験をした時、人は確実にそれ以前とは違う自分になっていきます(バージョンアップ)。
相場の暴落・急騰など、自分が経験したことのない値動きがインパクトとなって、投資家としての成長を促してくれます。
参考文献
面白いほどよくわかる 図解 世界の哲学・思想―深遠な「知」の世界を豊富な図版・イラストでスンナリ理解! (学校で教えない教科書)
