以前、同じ著者の『経済は統計から学べ!』を読みましたので、今度は地理的観点から経済を学ぶということです。
これこそが「多角的」ということですね。

経済は地理から学べ!
地球が人類に与えた「土台」
自然環境に最適な形で文化は発達する。
地域的特性を知れば暮らしを理解できる。
アイスランド
火山多数→地熱発電26%
氷河浸食によるU字谷→水力発電74%
再生可能エネルギーで電力100%
大量の電気が必要なアルミニウム工業が発達
スケールを変えて経済を見る
鉄鋼業は、大都市近郊で輸入便が良く、冷却用水の得易い沿岸部で発達。
製造業は、人件費が安く、特定の国や地域とFTA(自由貿易協定)を結んでいる国に工場を作ると無関税で輸出できる。
日本の経済戦略
「資源の輸入国」から先読みできる。
原油:中東84.9%に依存しつつも、近年はロシア10%からも
石炭:頼りは豪65%、インドネシア
天然ガス:豪・マレーシア・カタール・ロシア・インドネシア・UAE
鉄鉱石:豪・ブラジル・南アフリカ・カナダ・インド・ロシア
資源は価格が安いため、船舶で輸送するしかない。
地の利を活かした「インドのシリコンバレー」
アメリカのシリコンバレーと時差12時間。
インド人の約八割がヒンドゥー教(カースト制度)を信仰。
インド工科大学とは、インドに16ある国立大学の総称(倍率98%)。
卒業生は破格の給料で海外のIT企業で働いている。
ロシアとヨーロッパの経済的つながり
ヨーロッパを流れる二つの国際河川※
※複数の国を流れ、どの国の船舶も通行可能。
ドナウ川は黒海へ・ライン川は北海へ、つまり北海と黒海が一本で繋がっている。
ライン川の河口はオランダのロッテルダム(ユーロポート・欧州の玄関口)がある。
世界最大級の石油化学工業が発達している。
ユーロポートに運ばれてきた原油は、パイプラインでドイツのルール工業地帯に延びている。
❶ロシアからオランダへ原油輸出
❷オランダの石油化学コンビナートで加工
❸オランダからライン川、マイン川、ドナウ川などを通じて欧州各地へ輸送
一位ドイツ、二位ベルギー、三位イギリス、四位フランス
「水道水が飲める国」
資源大国としての日本。
世界では、約七億人が水不足の生活を強いられている。
20世紀(石油の世紀)は自動車や航空機により石油を巡る争いが絶えなかった。
21世紀(水の世紀)は途上国の工業化や生活水準の向上で水需要が高まる。
国土全体において水道水を安全に飲める国は世界に15カ国しかない。
フィンランド、スウェーデン、アイスランド、アイルランド、ドイツ、オーストリア、スイス、クロアチア、スロベニア、UAE、南アフリカ、モザンビーク、豪、ニュージーランド、そして日本。
日本人は「水と安全はタダ」と当たり前に思っているが世界の多くの国はそうではない。
サウジアラビアの年降水量は59mmしかない砂漠気候。
砂漠の遥か下に存在する帯水層も枯渇しつつあるため、穀物生産量は年々減少している。
淡水化水の利用が拡大しているが、穀物を海外依存しているので石油価格を上げて「目先の利益」を求めると穀物の禁輸措置というカウンターパンチをもらう可能性がある。
レアメタル
白金族は、ルテニウム・ロジウム・パラジウム・オスミウム・イリジウム・白金(プラチナ)の総称でレアメタルの一種。
水と反応せず、酸や塩基に浸食されにくい特徴がある。
産出はロシア・南アフリカ・アメリカ・カナダ・ジンバブエでほぼ100%。
主な用途は、自動車触媒や電気・電子工業用と宝飾品。
アルミニウムで資源大国が分かる
アルミニウムの原料であるボーキサイトは熱帯土壌での産出が多い鉱産資源。
不純物を取り除き、電気分解することで作られる。
一円玉、アルミ箔、アルミ缶、自転車フレーム、家電製品の筐体などに利用される。
アルミニウムは「電気の缶詰」と呼ばれるほど生産工程において大量の電力が必要。
日本は資源小国であるため、発電に必要な燃料の多くを輸入に依存している。
そのため発電がコスト高になっている。
日本における産業用電力費は、1kWhの発電に0.129ドルかかる。
アメリカは日本の約半分で済む。
安価な電力は化石燃料に依存しない再生可能エネルギーで発電することで得られる。
その中でも太陽光や太陽熱、風力は安定性という面で劣る。
また地熱は世界中どこでも存在するわけではない。
やはり「年に何mm、雨が降るのか?」「どの季節によく降るのか?」が分かり、安定して利用できる水力発電を利用することが安価な電力への近道である。
水力発電は包蔵水力(国内に存在する水資源の内、技術的・経済的に利用可能な水力エネルギーの量を指す)を考える必要がある。
ブラジルに見る「安定」資源
アンデス山脈—環太平洋造山帯で原油・銅の埋蔵が豊富
ギアナ高地・アマゾン川・ブラジル高原—鉄鉱石・ボーキサイト・レアメタル
ツクルイダム(日本ODA)、アルブラス社(日本49%)→アルミ地金(総輸入量10%)
発電量の3/4は水力発電
EUに加盟しないノルウェーの正体
❶水産業
❷水力発電96%世界6位(中・加・ブラジル・米・露)
❸原油(世界15位)と天然ガス(世界7位)
ダイヤモンド国家ボツワナ
三つの地理的悪条件
❶ダイヤモンド産業の牽引によって賃金水準が高い
❷内陸国
❸人口約226万で国内市場が非常に小さい
日本のEPA(経済連携協定)
EPAとは、幅広く経済強化を目指した貿易や投資の自由化、円滑化を進める協定。
メキシコは、シンガポールやチリと同様にFTA大国である。
そのため、日本企業がメキシコに生産拠点を設け、部品や原材料を送り、完成品をメキシコからアメリカ合衆国やEUへと輸出することで、当該地域に対して関税をほとんどゼロにするというメリットがある。
オーストラリア(人口2400万人)
豊富な資源を自国利用しない。
豪の主産業は農牧業と鉱業。
石炭・鉄鉱石・ボーキサイト❶位
銅鉱石❸位
ニッケル鉱石❹位
天然ガス❺位
豪は、リタイヤした海外からの移住者、富裕層が多い。
最低賃金水準が日本やアメリカの約二倍。
外食産業では、外国企業が進出して成功した例はほとんどない。
ブラジルとヨーロッパを結ぶ産業
小型航空機製造エンブラエル社—EU域内のシェンゲン協定によって需要増
航空連合(スターアライアンス、ワンワールド、スカイチーム)—提携航空会社による共同運航(コードシェア便)、マイレージサービスの共有化などが提供される。
中国を支える食材とその危うさ
生活水準が向上すると肉類や油脂類の消費量が増える。
豚は世界の約半分(4億7600万頭)
牛は1億1350万頭(世界❸位)
羊は1億8270万頭(世界❶位)
ヤギ1億7500万頭(世界❶位)、
鶏47億4200万羽(世界❶位)
飼料用の大豆需要増加(農業用水確保困難)
工業用水と奪い合いのため、大豆自給率は15%程度に低下し、大豆の20%を輸入。
中国が投資を急ぐタンザニアの潜在能力
1956年以降の中国のアフリカへの経済援助額は日本の約半分。
北京政府を正当な国家であると承認してもらうためで、それを基礎に資源獲得。
台湾を正式な中国であると認識している国は54カ国中2カ国。
タンザニアへの直接投資額は、旧宗主国のイギリスに次いで中国は第二位。
特に製造業への投資が七割を占めていて、インフラ整備の案件を中国企業が受注。
タンザニアはケニア、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジ、南スーダンと共に将来的な単一通貨などの地域統合を目指して東アフリカ共同体を結成。関税同盟が発足。
またEUとの間でEPAを結ぶなど、今後の経済の活性化が期待されている。
貿易黒字なのに経済が発展しない理由
自国資源を自国の経済発展のために利用したいという考えのことを資源ナショナリズムという。
ナイジェリアの輸出品目は、原油83%・天然ゴム2.7・石油製品2.7・カカオ豆2.2、天然ガス2
原油を巡って、英・露vs仏・南ア。負けた仏は原子力への依存度を高めていく。
ナイジェリアは輸出による収入を特権階級が独占しているので成長できない。
土地・資源無しの日本がなぜ経済大国に?
「教育水準の高さ」と「人口の多さ」
日本の貿易依存度は15%の「内需依存型」
少子化は、将来的な労働人口・消費者・納税者の減少を意味する。
人口大国の共通点は「5つの農作物」
米・小麦・茶・綿花・ジャガイモ
米(モンスーンアジア・生産量9割、地域人口世界の55%)
綿花(多くの労働力を必要とするため人口が増加)
人口、GDP、貿易額で比較
EU(ヨーロッパ連合27カ国)5.1億人
NAFTA(北米自由貿易協定3カ国)4.8億人
MERCOSUR(南米南部共同市場6カ国)3.0億人
ASEAN(東南アジア諸国連合10カ国)6.3億人
スウェーデンの移民政策
北ヨーロッパとは、アイスランド・デンマーク・ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの五カ国。
広義ではエストニア・ラトビア・リトアニアのバルト三国を含める。
国際競争力を高めるために、GDPに占める研究開発支出の割合が高く、知識集約型の先端技術産業の発展に力を入れている。
スウェーデンの首都ストックホルムの中心から地下鉄で15分のシスタという街。
元々は軍用地で、1970年代より企業進出が始まり、通信機器メーカーのエリクソンはITとラジオの研究開発を始めた。
1988年に、エリクソンは第二世代移動通信システムであるGSMを開発。
実質的に無線通信方式の世界標準技術となる。
一時期は端末製造も手掛けていたが、フィンランドのノキアとのシェア争いから撤退。
エリクソンだけではなく、IBMやマイクロソフトなどもシスタに北欧事業の拠点を構え、スウェーデン王立工科大学やストックホルム大学の研究機関も進出している。
シスタが「北欧のシリコンバレー」と呼ばれる所以である。スウェーデンの移民は、いわゆる「高度人材」と呼ばれる人たちが非常に多い。
ソーセージ、ジャガイモ、ビールは天の恵み
ドイツは国土の中央部を北緯50度が通過。
氷河浸食を受けて腐植層が薄い。
地力が低くても育つジャガイモ→豚→ソーセージとなる。
インドを支える「牛」の力
ヒンドゥー教は多神教で三神一体を近世の教義としている。
三神とは、ブラフマー(創造神)、ヴィシュヌ(維持神)、シヴァ(破壊神)のこと。
シヴァはナンディンと呼ばれる乳白色の牡牛を乗り物にしている。
そのため牛は聖なる動物であるとして食すことは禁忌となっている。
イスラム教は、豚肉を食すことは禁忌だが、牛肉は食べる。
キリスト教も牛肉を食べるから、インドには二億人が牛肉を食べる。
インドの宗教構成は、ヒンドゥー教81%、イスラム13、キリスト2.3、シーク教1.9、仏教0.8、ジャイナ教0.4。