環境Environment、社会Social、ガバナンスGovernance(=統治・管理・支配)。
資本主義の主な「プレイヤー(投資家)」と「ESG」について整理したいと思います。
ESG思考/夫馬賢治
アングロサクソン型資本主義
我々は資本主義社会に生きている。
社会主義陣営は1991年に崩壊し、今や共産主義体制を取っている中国やベトナムですら資本主義を受け入れている。
資本主義を象徴する存在が「資本家(投資家・株主)」であり、特に注目されるのが「アングロサクソン型資本主義※」。
※米国・英国でみられる資本主義の形態。
企業は金融市場から直接資金を調達し、株主利益の最大化を優先する。
業績が悪化した場合は、株主価値を維持するために積極的に人員を削減するため、雇用は不安定になる。
賃金制度は成果主義、自己責任を重視。政治的には小さな政府を志向する。
アングロサクソン型資本主義は、何十年もの間、脱資本主義の人たちに批判されてきたが拡大し続けている。
経済成長が著しいシンガポール、香港、インド、スリランカ、南アフリカ、ケニア、ナイジェリア、エジプトはイギリスの旧植民地だった国で、これにアメリカ、カナダ、オーストリア、ニュージーランドというイギリスを出自とする先進国を加えると、経済大国は概ねアングロサクソン型ということになる。
中国でもメキシコでも、経済エリートたちはこぞって米英のビジネススクールに通い、アングロサクソン型の経営を学ぶ。
「機関投資家」とは誰か
2020年時点で世界の資産合計は279兆ドル(株式・預貯金・土地・債券含む)。
「機関投資家(「年金基金」「保険会社」)」は資産全体の33%(資金の出所は個人)。
「政府系ファンド」は、アブダビ、サウジアラビア、クウェート、ノルウェーなど産油国のモノ、中国投資有限責任公司(CIC)、シンガポールの政府投資公社(CIC)やテマセク・ホールディングス(TH)などが知られているが全体の4%に過ぎない。
残りの63%は「個人投資家」。
但し、その内の33%を構成する資産100万ドル以上の富裕層はプライベートバンクか特別待遇の資産運用サービスを利用しがち。
富裕層投資家のことを、金融機関では「ファミリーオフィス」と呼ぶ。
残りの30%が普通の個人投資家で「リテール投資家」と呼ばれる。
機関投資家も個人投資家も、実際には資産運用を「運用会社」に任せていることが多い。
日本では運用を専業にしている会社と、信託銀行が運用会社の役割を一つの事業として行っているケースの2パターンがある。
日本の大手運用会社には、三菱UFJ信託銀行、三井住友トラスト・アセットマネジメント、アセットマネジメントOne、野村アセットマネジメントなどがある。
一方、世界の上位はブラックロック、バンガード、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ、フィデリティ・インベストメンツと上位4位は全て米系が占める。
彼らがいわゆるウォールストリートの担い手たちで「外国人投資家」と呼ばれ、日本の上場企業の株式も多数保有している。
首位のブラックロックは約7兆ドル、バンガードは約5兆ドル、ステート~でも約2.5兆ドルある。
米系には世界中の投資家から資産が集まる上に、海外展開も積極的にしているので運用資産規模が大きい。
もちろん三社とも日本に支社がある。
それに比べ日本最大手の三井住友~は約8千億ドルで世界28位。
日本は先進国ながら運用業界の規模は大きくない。
運用会社に預けている投資家の30%はリテール投資家で、33%は年金基金と保険会社を通じた一般人の老後資産なので全体の3分の2は一般人のお金だ。
逆に富裕層と言われる人の占める割合は3分の1しかない。
富裕層はプライベートバンクで運用しているか、直接株を買っている。
アングロサクソン型資本主義は、株主利益を最優先にする仕組みが批判されてきたが、その株主が誰かを辿っていくと、結局は一人ひとりの一般の人に行き着く。
我々は自覚すること無く株主になっており、この資本主義社会の推進者として機能している。
従って、株主利益の最優先を誰が求めているかと言うと、一部の富裕層ではなく、一人一人の労働者だということになる。
これが資本家の正体であり、資本主義の本質だ。
世界最大の機関投資家GPIF
SDGsとパリ協定が採択されてから、約一年半以上が経過した2017年7月3日。
日本の国民年金と厚生年金の合計約170兆円(2019年末)の資産運用を全て担い、世界最大の年金基金GPIFが一通のプレスリリースをホームページに掲載する。
タイトルは短く「ESG指数を選定しました」。
これは、GPIFがニュー資本主義へ移行したことを知らせる合図となった。
GPIFは2014年に株式運用を50%に引き上げた。
2015年1月にGPIF初の運用担当理事兼CIOに選ばれたのが、厚生労働省の部会の委員にもなっており、イギリスのプライベートエクイティ・ファンド大手コラーキャピタルのパートナーを務めていた水野弘道氏だった。
2017年のプレスリリースで選ばれた三本のインデックスは、すべてMSCIとFTSEというグローバル大手のインデックス開発会社のものだった。
このことは、日本企業もグローバル基準でESGを評価され、ESGスコアの高い企業の株がより買われ、そうでない企業の株が売られる時代に突入したことを意味した。
三本のインデックスで運用されると発表された額は一兆円。